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取材レポート

2021.7.12

いつから入管は、人が生きてよいかどうかを決める組織になったのか ーウィシュマさん死亡事件の解明求める署名活動はじまる

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2021.7.12

取材レポート #収容問題 #人権 #安田菜津紀

「姉は入管に殺されたと、私たち家族は思っています。その責任があることを隠すためにビデオを出さないのではないでしょうか」。7月7日、都内で開かれた記者会見で、名古屋出入国在留管理局で亡くなった、スリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんの妹、次女のワヨミさんは声を震わせながらこう語った。「滞在して2カ月になりますが、何の結果もまだ得られていません。中間報告も、これから出る最終報告も信用できません」。
 

7月7日の記者会見に臨んだワヨミさん(中央)

ウィシュマさんが亡くなったのは3月6日、衰弱して歩くこともできなくなり、支援団体も再三、入院や点滴などを求めていたにも関わらず、最後までそうした措置がなされることはなく、仮放免が認められることもなかった。

ウィシュマさんは英語教師を目指し、2017年6月に来日したものの、その後、学校に通えなくなり在留資格を失ってしまった。昨年8月に名古屋入管の施設に収容されたが、帰国できなかった背景には、同居していたパートナーからのDVと、「帰国したら罰を与える」「殺す」などといった脅しがあったとされる。
 

生前のウィシュマさん(ご遺族提供)

入管庁が4月に公表した「中間報告」については、この間、様々なほころびが明らかになってきている。2月5日に胃カメラ検査などを受けた外部病院の診療記録は、「(薬を)内服できないのであれば、点滴、入院」と記されていたことが分かっているが、中間報告では、「点滴や入院の指示はなかった」と真逆の記載になっている。また、亡くなる2日前、3月4日に診療を担当した別の外部病院の精神科医は、「診療情報提供書」に「仮釈放(※筆者注 仮放免)してあげれば、良くなることが期待できる。患者のためを思えば、それが一番良い」と記していた。「仮放免」は在留資格がないなどの事情を抱える外国人を、入管施設に収容するのではなく、その外での生活を認めたものだが、中間報告はこの記載には触れていない。

同提供書には、「支援者から『病気になれば仮釈放(仮放免)してもらえる』と言われ、詐病の可能性もある」などの記載もあったが、支援団体「START」メンバーは「そうしたことは一切言っていない」としており、当該医師も「支援者から『病気になれば仮釈放(仮放免)してもらえる』と言われ」の部分に関しては、同行してきた入管職員から口頭で伝えられたと、遺族や代理人に語っている。こうした入管側の虚偽の情報が、医師の誤った判断の要因となったのではないかという点も、中間報告で検証された形跡は一切ない。
 

5月17日、名古屋入管を訪れたワヨミさん、三女のポールニマさん

こうした検証の中で、非常に重要な物証とされているのが、ウィシュマさんがいた名古屋入管内の居室に設置されていた監視カメラの映像だ。ところが入管側は「保安上の理由」を掲げ、遺族にさえビデオを開示していない。

こうした実情に声をあげようと、「ウィシュマさん死亡事件の真相究明を求める学生・市民の会」が、ビデオや解剖所見などの重要文書の開示、そして再発防止の徹底を求め、オンライン署名活動を開始し、7月7日、呼びかけ団体のメンバーが、ワヨミさんや賛同する文化人と共に会見を開いた。

「BOND~外国人労働者・難民とともに歩む会~」事務局長の鎌田和俊さんは「ビデオを開示すれば、入管にとって都合の悪いことが明らかになるのではないでしょうか。このような入管の態度は、日本社会からの不信を招くだけです」と批判。入管収容施設では、2007年以降、17人が亡くなっており、「我々支援者の願いは、これ以上犠牲者を出さないことだ」と強調した。
 

厚労省記者クラブで行われた記者会見。中央でマイクを持つのが鎌田さん

同じくBONDメンバーで、上智大学4年の川村ひなのさんは、「在留資格がないなら外国人は死んでもいいという人種差別から起きたものではないでしょうか」と指摘する。「私は二種類の怒りを感じています。ひとつは、ウィシュマさんやたくさんの人々を差別して殺した、日本政府、入管に対してのものです。もうひとつは、この問題について無関心でいることができる、できていた自分自身に対してのものです」と、関心を広げることの重要性を語った。

名古屋入管での面会活動などを続けている「START」学生メンバーの千種朋恵さんは、生前のウィシュマさんに二度、面会している。「2月上旬に私が初めて面会したとき、ウィシュマさんはすでに食事をとることも自力で歩くこともできず、何度も嗚咽してしまうような状態でした。この時点で収容に耐えられる状態ではないことは、学生の私から見ても明らかでした」と、その時の様子を振り返る。
 

ウィシュマさんの面会時の様子を振り返る千種さん

ウィシュマさんの死後、「START」は入管側からヒアリングを受けているが、「(診療情報提供書に記載されていたような)“病気になれば仮放免してもらえる”と伝えたことはない」と否定しているにも関わらず、どのような表現で伝えたのかなど、誘導尋問のように繰り返し聞かれ、活動の資金などがどこから出ているのかといった、調査とは本来関係のない質問を受けたことから、公式サイトにも「収容主体である入管の管理責任を、亡くなった女性や支援者に転嫁するような結論を出すための調査に協力することは断じてできない」と見解を公表している。

千種さん自身はヒアリングを直接は受けていないものの、こうした態度を「入管にとって都合のいい言葉を集めているだけのように感じます」と指摘。「このままでは、体調不良者を詐病、うそつき、厄介者と決めつけ、死亡事件が再発する病根を残してしまうと思います」と、強く抗議した。

大阪出入国在留管理局(以下、大阪入管)への面会活動などを行っている「TRY」メンバーで、神戸市外国語大学4年の松田成美さんは、収容者への暴力が大阪入管でも繰り返されてきたことを訴えた。2018年には、男性収容者17人が約24時間にわたって6人部屋に閉じ込められる事件が起き、元収容者が国に損害賠償を求める裁判を起こしている。17人が閉じ込められている間、大阪北部地震が起きた際にも部屋の開錠はされなかったという。「私たちの感覚からすれば虐待と言ってもおかしくないことが行われてきています。ウィシュマさんの事件は、名古屋入管だけの問題ではなく、現代の入管行政の体質を表しているのではないでしょうか」と指摘した。
 

大阪入管の実情を語る松田さん(左)、その隣がBOND川村さん。

小説家の星野智幸さんは、5月6日に開かれた「入管法改悪案廃案を求める緊急記者会見」にも登壇している。「当時、入管の罪だと感じていたのは、命の危険にある方を“放置したこと”だととらえていました。ところが、ウィシュマさんを診療した医師の証言などから、虚偽の報告により医療行為が阻害されたことが明らかになりました。嘘をついて人を死に追い込んだのであれば、単に放置したという以上の“積極的な意思”というものを感じます」と、入管の責任について強く投げかけた。

「いつから入管は、人が生きてよいかどうかを決める組織になったのでしょうか。“生きる権利のない人”は、積極的に排除して死に追いやってよいというような権限を、入管はいつ手にしたつもりでいるのでしょうか。そんな人たちの言い分を信用できるでしょうか。入管は正直になること以外、組織として立ち直る道はないと思っています。これはもう国籍や在留許可の問題ではなく、命が危なくて助けを求めている人を死に追いやった、そういう事態を社会が許すのか、という問題だと思います」
 

署名に賛同し、会見に登壇した星野智幸さん(左)とキニマンス塚本ニキさん

ラジオパーソナリティのキニマンス塚本ニキさんは、2010年、アムネスティ・インターナショナルの難民チームでインターンとして、牛久や品川の施設に収容されている人々との面会や、彼らが必要とする資料の調査を行っていたという。その同じ年に、ガーナ人男性のアブバカル・アウドゥ・スラジュさんが、強制送還の際に入管職員たちの過剰な抑圧行為で窒息死する事件が起きた。「当時は悔しさややるせなさを感じていましたが、あれから10年以上経ってなお、状況は変わっていない、むしろ悪くなっているのではないかと感じます」と警鐘を鳴らす。「誰かが犠牲にならなければ、この国で起きている構造的な人種差別、人権侵害の問題が人々の意識に殆どあがってきません。これを変えるためには、一人ひとりが声をあげて、変化を起こしていく必要があると思います」と語った。

ウィシュマさん遺族の代理人である指宿昭一弁護士も「入管法改悪法案は、市民の力で阻止することができました。このビデオ開示も、市民が声をあげれば開示させることができるはずです。その大きな力が今回の署名活動です」と、市民社会の声が鍵となることを強く語る。
 

指宿弁護士は今月、米国務省の人身売買と闘う「ヒーロー」に選ばれた

ウィシュマさんの事件をきっかけに初めて入管内部での問題を知った、という声を耳にすることがある。「知る」の先に積み重ねられるアクションのひとつが、署名を通して声を持ち寄ることではないだろうか。署名活動は8月中頃まで集める予定で、その間、関連イベントなども開催予定とのことだ。
 

     

▶署名リンク
#JusticeForWishma 名古屋入管死亡事件の真相究明のためのビデオ開示、再発防止徹底を求めます

▶イベントリンク
7月20日<オンライン企画>ウィシュマさん死亡事件の真相を求める会

その他、8月21日午後にも全国集会を開催予定

 

(2021.7.12 / 写真・文 安田菜津紀)

 


あわせて読みたい

Dialogue for Peopleではウィシュマさんの名古屋入管での死亡事件、そして入管行政のあり方や問題点について記事や動画、ラジオで発信してきました。問題を明らかにし、変えていくためには市民の関心と声を継続的に届けていくことが必要です。この件に関する取材や発信は今後も行ってまいります。関連コンテンツを時系列で並べておりますので、ぜひご覧ください。

【事件の経緯・問題点】
「殺すために待っている」「今帰ることできません」 ―スリランカ人女性、ウィシュマさんはなぜ帰国できず、入管施設で亡くなったのか[2021.4.19/安田菜津紀]
「この国の崩れ方がここまできてしまったのか」―入管はなぜウィシュマさんのビデオ映像を開示しないのか[2021.5.18/安田菜津紀]
Radio Dialogue ゲスト:千種朋恵さん・鎌田和俊さん「ウィシュマさん死亡事件の真相究明と再発防止を求めて」(7/7)
いつから入管は、人が生きてよいかどうかを決める組織になったのか ーウィシュマさん死亡事件の解明求める署名活動はじまる[2021.7.12/安田菜津紀]

【報告書について】
ウィシュマさんを診療した医師は遺族に何を語ったのか ―「最終報告」に盛り込むべき3つの重要点[2021.7.5/安田菜津紀]
Radio Dialogue ゲスト:中島京子さん「ウィシュマさんの報告書とビデオ開示から考える収容問題」(8/18)

【入管行政の問題点・入管法改定など】
入管法は今、どう変えられようとしているのか? 大橋毅弁護士に聞く、問題のポイントとあるべき姿[2021.3.22/安田菜津紀]
「仲間ではない人は死んでいい、がまかり通ってはいけない」―入管法は今、どう変えられようとしているのか[2021.4.12/安田菜津紀]
「“他人が生きていてよいかを、入管は自由に決められる”というお墨付き」―入管法が変えられると、何が起きてしまうのか[2021.5.7/安田菜津紀]
在留資格の有無を「生きられない理由」にしないために ―無保険による高額医療費、支援団体が訴え[2021.6.7/安田菜津紀]
 

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2021.7.12

取材レポート #収容問題 #人権 #安田菜津紀