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2022.4.8

ウクライナ難民受入に、「入管法政府案」再提出は必要なのか? 高橋済弁護士インタビュー

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2022.4.8

インタビュー #難民 #法律(改正) #ウクライナ #安田菜津紀

4月7日、政府は、紛争からの避難者保護を掲げ、「補完的保護」を規定した入管法政府案の再提出を目指していることが報じられた。

2021年2月19日に閣議決定され、国会に提出された「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」(以下、入管法政府案)は、昨年成立が見送られている。背景には、人道上の問題を指摘する多くの声があった。
 

入管法政府案に反対する議員会館前のスタンディングで掲げられていたプラカード

例えば、仕事を失う、生活に困難を抱えて学校に行けなくなる、パートナーと離婚するなど、様々な理由で外国籍の人が日本に暮らすための在留資格を失ってしまうことがある。それでもなお、「命の危険がある」「家族が日本にいる」「生活の基盤の全てが日本にある」など、帰れない事情を抱える人たちが国外退去の命令に従わない(従えない)場合、保護したり在留資格を付与したりするのではなく、1年間の懲役または20万円以下の罰金となる可能性がある項目が法案には盛り込まれていた。

また法案では、法務省が「難民と認めない決定」を2回下せば、以降は強制送還が可能になってしまう仕組みとなっている。つまり、何らかの事情を抱え3回以上難民申請をしている外国人が、迫害の恐れのある国に帰されてしまう可能性があるということだ。

法案の問題点については、記事「入管法は今、どう変えられようとしているのか?」で大橋毅弁護士が詳しく解説している。

人権上、多くの問題を抱えているが、ウクライナから避難する人々の保護を「建前」にして再提出する必要性が本当にあるのだろうか。高橋済弁護士は、「あまりに卑劣です。目指すべきは、ウクライナを口実にした、入管法政府案の成立、すなわち、送還の強化ではなく、難民が適切に救われる制度の構築のはずです」と憤る。高橋弁護士に、今後のあるべき制度のあり方などについて伺った。
 

都内で開かれた記者会見で発言する高橋済弁護士

―ウクライナから避難してくる人々に対して、政府は「避難民」という言葉を使い続けています。

難民として認定されると、難民条約上、逃れてきた国の状況が「本質的な変化」といえるほど改善されない限り(根拠:難民条約1条C(5))、帰国させられることはありません。しかし、法的位置づけがあいまいな「避難民」は、国家の主権に基づく「恩恵的な取り扱い」を与えられているもので、いつでも帰すことができてしまいます。
 

―政府は、入管法政府案を通し、「補完的保護」によって「準難民」を保護するとしましたが、現行法で対処はできないのでしょうか?

例え難民認定が受けられなかったとしても、現行法の「人道配慮措置」というもので難民並みの扱い、待遇は十分可能です。それをあえて政府、入管がしていないだけです。避難してきた人たちの地位を弱めているのは、行政の裁量のあり方そのものです。

「ウクライナ侵攻から考える、日本の難民受け入れの課題とは?」でも、認定NPO法人 難民支援協会(JAR)代表理事の石川えりさんは、《「武力紛争および暴力の発生する状況から避難した者」も、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のガイドラインなどで難民として定義しうる》と指摘しています。

―政府法案に盛り込まれていた「補完的保護」(迫害を受けている外国人を難民に準じて保護する)は、国際基準でいう「補完的保護」とは異なると指摘されてきました。

政府の法案の「補完的保護」では、今回のウクライナ避難民は保護できません。なぜなら、「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」(難民条約1条)といった、難民認定と同様の要件を補完的保護の要件に残してしまっているからです。

入管庁の解釈する「十分に理由のある恐怖」は、国際水準から比べると非常に狭くとらえられていて、例えば「個別にターゲットにされていること」などが考えられますが、戦争から避難してくる人々のような、無差別攻撃、無差別暴力から逃げてきた人たちは、「個別にターゲットにされていること」を証明することができません。
 

甚大な被害を受けたウクライナ・ボロディアンカ(撮影:クレ・カオル氏)

―改めて、昨年廃案になったはずの入管法政府案はどのような点が特に問題だと考えますか?

政府が濫用とみなしたら、難民申請中に強制送還できる法律改正はやはり問題です。ウクライナから逃げてくる人たちはいま、政治的にも「救われるべき命」とされています。しかし、仮に今後、「救われるべき命」ではないと入管が考えた場合、彼らは何度難民申請しても保護されず、彼らを強制送還することを可能にする、そういう法案なんです。
 

―改めて、「難民が適切に救われる制度」のために、どんな改革が必要とされているのでしょうか?

①政府の外交的な考慮、政治的な思惑や、入管の治安維持思考から、独立した、人の命を守ることを目的とした難民保護機関を設置し、②難民認定基準を国際的な判断基準と同様のものとすることです。こうすることで、万が一にも間違って、命の危険がある国に強制送還することがないような制度が必要です。

(2022.4.8/写真・インタビュー 安田菜津紀)

 


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2022.4.8

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