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2019.12.28

【イベントレポート】「『BABAGANOUJ PROJECT 2019』~武器ではなく楽器をその手に~」活動報告会(2019.12.7)

2019.12.28

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2016年にヨルダンの難民キャンプで避難生活を続けるシリアの人々を訪れたSUGIZOさんを中心に、NGO職員の斉藤亮平さん(JIM-NET)、フォトジャーナリストの佐藤慧(Dialogue for People)と共に結成された『ババガヌージュ』。これまでヨルダン、パレスチナなどで活動し、今年の9月末から10月にかけ、イラクとヨルダンで音楽交流活動を行いました。今年の活動はクラウドファンディングによりご支援をいただいたことから、一連の活動の報告を行うべく、12月7日、玉川聖学院キンレイホールにて報告会を実施いたしました。

初めての難民キャンプ訪問からBABAGANOUJの結成へ

報告会では、ババガヌージュが活動をはじめた2016年から辿ってきた歩みを振り返るところからスタートしました。

「最初は一個人として、難民キャンプを訪れてみたい、という気持ちで現地に伺ったのですが、そこで現地の方々からのリクエストで演奏をすることになったのがきっかけでババガヌージュが生まれました。難民キャンプですから、暮らしていらっしゃる方は命を脅かされる状況からなんとかここに辿り着き、明日生きていけるかどうかという状況にあるわけです。そんなときに音楽や芸術なんて、不謹慎ではないのかなぁという戸惑いがありました」。

と語るのはSUGIZOさん。2016年、最初に訪れたヨルダンではアズラック難民キャンプとザアタリ難民キャンプの2箇所を訪れました。

©︎KEIKO TANABE

「日頃、生活上のいろんな制限や気持ち面での抑圧があることもあって、最初はやっぱり、心の距離がある感じなんですよね。でも、ライヴが後半にはどんどん盛り上がってきて、ヒジャブ姿(※)の女性も踊りや手拍子をはじめて、だんだんと防壁があった感情が自由になっていくような印象を持ちました。子どもたちもすごく喜んでいて、我々の想像以上に、みんな心を発散する、解放する場所を求めているんだということを痛感しました」。(SUGIZO)

※ヒジャブ…イスラム教徒の女性が頭や首を隠すために着用する布。他にも目以外を全て覆うニカブや、足首まで覆うアバヤなどがある。会場にはそれら、多くの伝統衣装を着た女性たちが集まった。

「出会ってふれあってはじめてわかることもたくさんあって。音楽をはじめとする文化的チャンネルをいくつもつくることで、『難民』という“支援対象者”ではなく、ともに音楽を楽しむ人々として捉え直すことができると、壁を乗り越えて一緒に生きる世界を描けるのではないかとおもいます。そういう意味で、この活動に大きな可能性を感じました」。(佐藤)

(写真)写真とともに活動を振り返る。飛び出すエピソードに、会場からは笑いや驚きの声も。(©︎KEIKO TANABE)

その後、ババガヌージュは2018年、SUGIZOさんのソロプロジェクトであるCOSMIC DANCE QUARTETとともにパレスチナを訪れます。イスラエルによる侵略で、西岸地区と「天井のない監獄」ともいわれるガザ地区に分けられているパレスチナ。70年という長い年月の間、常に争いが繰り返され、分断壁は日々強固なものになり、心の分断も強まっている状況です。ここでは3箇所でのライヴを行いました。(詳細はこちらのレポートをご覧ください)

イラク、そしてヨルダンの再訪。新たな出会いと再会。

2019年、ババガヌージュはクラウドファンディングを通じた支援を胸に、イラクとヨルダンを訪れました。イラクでは斉藤さんが所属するJIM-NETが活動の拠点を置いているアルビルと、シリアからの難民の方々が身を寄せるダラシャクラン難民キャンプ、ヨルダンではザアタリ難民キャンプを再訪。新たな出会いとともに、懐かしい方々との再会を果たしました。

JIM-NETが今年オープンさせた小児がんの子どもと家族のための総合支援施設「JIM―NETハウス」でのライヴ風景。 (©︎KEIKO TANABE)

ダラシャクラン難民キャンプでのライヴ風景。最前列のお客さんの一部が舞台にあがってしまうという珍事件も。「ライヴ」というものを体験したことがないがゆえの反応なのかもしれない。 (©︎KEIKO TANABE)

今回の滞在でも、ライヴの合間をぬって、家庭訪問や現地の歴史を学ぶために資料館等に行く時間を設けました。
SUGIZOさんと斉藤さんが訪れたのは、アルビル郊外にあるドホーク地域に住むヤズディ教徒のご一家。この家に住んでいたナブラスちゃんという女の子は、血液のがんを患い、JIM-NETの支援をうけていました。残念ながら約4年前に亡くなってしまいましたが、ナブラスちゃんの描いた絵は、JIM-NETのチョコ募金の缶のデザインやSUGIZOさんの衣装の一部にもなっており、目下SUGIZOさんのギターのデザインになる企画も進行中で、ご家族にもそのことをご報告しました。

ナブラスちゃんのお兄さんとその子ども。彼女の名前もまた“ナブラス”という。 (©︎KEIKO TANABE)

佐藤とCOSMIC DANCE QUARTETのメンバーが訪れたのは、「アンファール虐殺記念館」。
1988年、サダム・フセイン率いるバース党政権は、イラク北部に住むクルド人たちを反乱分子と見做し、「アンファール作戦」という虐殺を行いました。わずか6カ月半の間に殺された人の数は、約18万人。クルドの人々の住む街々を襲い、あらゆるものを破壊。いまだ見つかってない遺体も多くあるそうです。こうした凄惨な過去と向き合うことは苦しいことですが、交流をするうえでも歴史や文化に触れることは、大きな意味を持っています。

(写真)アンファール作戦の犠牲者を追悼する博物館を訪れた様子を伝える。音楽交流だけではなく、歴史や文化に触れることも大切な目的だった。 (撮影:塚原千智)

「一期一会の出会いを大事に、つながりをしっかり続けていきたいと思います。ヨルダンでは2016年に出会った家族をもう一度訪れることができました。3年経って家族の状況も少しずつ変わっているようでしたが、僕らのことを覚えてくれていて。久々に友達に会いに行くような感覚でしたね。これからも活動を続け、難民の方々にほんの一瞬でも心を開放する時間を届けたいと思います」。(SUGIZO)

故郷を追われたすべての人たちへの願いを込めて

トークの後には、現地でも演奏した3曲をライヴでお届けしました。
アラブ全体で老若男女になじみ深い「マウティニー」、大地を称える踊りのための一曲「アラダラオーナ」。そして2016年の最初の訪問をうけてSUGIZOさんが作曲された「The Voyage Home」、この曲にはすべての難民、すべての被災者、そしてすべての故郷を追われて苦しい生活を送らざるをえない人たちがいつか故郷に帰れますように、という祈りが込められています。

(©︎KEIKO TANABE)

最後に登壇者からメッセージが送られました。

「この度はご支援をいただき誠にありがとうございました。今回のことを通じて少しでも興味を持っていただいた方は、ぜひもっといろんな形で中東の文化や歴史に触れていただけたらと思います。中東の問題は一つではなく、非常に複雑でわかりにくいのですが、ちょっと掘り下げて自分で勉強してみると、報告会の写真の中に出てきた人たちが『こういうところに住んでいるんだな』と、ぐっと身近になるかもしれません。こうして少しずつでも心の距離を縮めていけるような活動を続けていきたいと思います」。(佐藤)

「中東地域で支援活動に従事してきましたが、中東の女性の方々が立ち上がって歓声をあげている光景を見たのはババガヌージュのライヴが初めてでした。人は本当に感動したとき、性別や宗教は全く関係なくなるのだなぁと驚いたものです。中東は残念なことに今も各地でいろんな悲しいことがおこっていますが、今後も可能な限り、訪問を続けていきたいと思います。今回皆さんの応援があって、皆さんと一緒に来ているということが実感することができました。今度はいつになるかわかりませんが、ぜひ応援をよろしくお願いします」。(斉藤)

「今回の活動は、過去2回の訪問と異なり、皆さんの支援があって成り立ったものでした。僕らは皆さんを代表して現地に向かった。それは意外にとても気持ちがよく、そして今まで以上に責任を感じました。僕らのやっている音楽は、とても感覚的で、プリミティヴ(原始的)で自然なものなので、このタイプの音楽は世界中どこに行っても受け入れてもらいやすいのかもしれません。もちろん危険なところに飛び込むつもりはないですけれども、危険を逃れて懸命に生きている人たちに、これからも光を届けていきたいと思います。今日は本当にありがとうございました」。(SUGIZO)

(©︎KEIKO TANABE)

活動直後の10月上旬、トルコがシリア北東部、主にクルド人が居住する地域に侵攻したことから、多くの避難民が発生し、民間人の犠牲者も多数出ていることが報告されています。今回訪れたダラシャクラン難民キャンプには、以前からシリアでの戦争を逃れてきた方々が身を寄せていらっしゃいましたが、本来争いとは全く関係のない市井の人々がなぜ、戦禍に翻弄され続けなければならないのでしょうか。こうして理不尽な形で故郷を追われる人々を新たに生み出すことを、私たちは望みません。

ババガヌージュが訪れた中東地域も、季節は冬。厳しい寒さがキャンプや仮住まいの方々の暮らしにやってきます。ライヴ後に「子どもを抱っこして!」とかけよってきたお母さん、「また会おう」と約束した家族、ヴァイオリンに興味津々だった難民キャンプの男の子、それぞれの顔を思い浮かべながら、少しでも穏やかに毎日を送れることを願うばかりです。

今回のババガヌージュの活動については後日、会計報告などを含めた報告書を本ウェブサイトに掲載する予定です。クラウドファンディングをはじめプロジェクトにご協力をいただいた皆さん、当日ご来場いただいた皆さん、そして活動にご興味を持ってくださった全ての方々に心からの感謝を申し上げます。
本当にありがとうございました!

(2019.12.28/文 Dialogue for People事務局 舩橋)
(写真 KEIKO TANABE、塚原千智)


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Dialogue for Peopleでは、難民キャンプなど冬の厳しい環境に暮らす方や、発災から時間が経過する中で被災地がどのような冬を迎えているかを取材し、継続して発信を行ってまいります。この活動は皆様のご寄付に支えられています。何卒あたたかなご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。

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