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「私たちの身に起きたことが、明日また誰かに起きるかもしれない」 ―せやろがいおじさんから、ウィシュマさん家族へのインタビュー

date2021.5.29

writer安田菜津紀

categoryインタビュー

晴れ間は見えているものの、山道は薄霧に覆われていた。時折雲の切れ目から、まだ真っ白な雪を被ったままの富士山の頂が顔をのぞかせる。静岡県富士宮市、田畑に囲まれた小高い丘の上のスリランカ仏教寺院「富士スガタ瞑想センター」に、100人近いスリランカ出身の人々が集った。5月23日、名古屋入国管理局(下記、名古屋入管)で亡くなったウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)の法要が行われ、ご遺族も参列した。この寺院には、生前のウィシュマさんも訪れたことがあったという。

富士スガタ瞑想センターで行われた法要

日本に暮らす日本国籍以外の人々は、仕事を失ったり、生活に困難を抱えて学校に行けなくなる、パートナーと離婚したりするなど、様々な理由で在留資格を失ってしまうことがある。「収容」とは本来、在留資格を失うなどの理由で、退去強制令書を受けた外国人が、国籍国に送還されるまでの「準備としての措置」という「建前」だ。ところが、収容や解放の判断には司法の介在がなく、期間も無期限で、何年もの間、施設に閉じ込められたまま、いつ出られるのかも定かではない人たちもいるのが現状だ。

法要の場で掲げられたウィシュマさんの遺影

ウィシュマさんは、英語教師を夢見て約4年前に来日したものの、学校に通えなくなり在留資格を喪失、昨年8月に名古屋入管の施設に収容された。帰国できなかった背景には、同居していたパートナーからのDVと、「帰国したら罰を与える」「殺す」などといった脅しがあったことを、ウィシュマさん自身がノートに書き記し、面会を重ねていた支援者にも相談していた。

静かに祈りをささげるウィシュマさんの2人の妹、ワヨミさん(奥)とポールニマさん(手前)

この日の法話の中で長老は、「お坊さんに食事のお布施を差し上げ、その功徳を亡くなったウィシュマさんに回向(えこう・功徳を相手に与えること)します。全ての生命は食事によって成り立っているとお釈迦様の教えにもあります」と参列者に語りかけた。食事の準備は、近隣コミュニティのスリランカ人留学生たちが作ってくれたものだった。亡くなる直前のウィシュマさんが、食事がのどを通らず、「いま ほんとうに たべたいです」と書き残していたことが頭を過った。

お布施の食事を手渡すご家族

ウィシュマさんが亡くなる2日前に彼女を診察した医師が、その「診療情報提供書」に、「支援者から『病気になれば仮釈放(仮放免)してもらえる』と言われ、詐病の可能性もある」などと記していたことが、これまで明らかになってきた中間報告のほころびなどの文脈から切り離され、一部で独り歩きしている。ただ、『「“他人が生きていてよいかを、入管は自由に決められる”というお墨付き」―入管法が変えられると、何が起きてしまうのか』にも記したように、面会を重ねていた支援団体「START」メンバーは「そうしたことは一切言っていない」としている。そもそも、医師と支援者は直接つながっておらず、ウィシュマさんがそう伝えたと考えるもの不自然だ。入管内ではかねてから、医療者ではない職員が「詐病」を疑い、医師の診察を受けさせるか否かの権限までも握っている状況が問題視されている。こうした実態こそより検証されるべきではないだろうか。

法要の前日、入管の問題を動画で発信してきたせやろがいおじさんが、ウィシュマさんの2人の妹にインタビューをした。その声をここでお伝えする。

5月22日、せやろがいおじさんのインタビューに答えるワヨミさん(中央)とポールニマさん(左)

―来日されてお疲れもたまっていませんか?

ワヨミ:疲れてはいますが、姉に起きたことをはっきりさせたい気持ちが強いので、頑張りたいと思っています。

―ウィシュマさんはお二人から見てどんな人でしたか?

ワヨミ:私たちが小さい時から、とてもやさしい姉でした。父が亡くなり、母が仕事している間は、母のように面倒を見てくれました。お小遣いをためて皆で外で食事をしたりしたことは、忘れられない思い出です。

ポールニマ:特に末っ子だった私のことをかわいがってくれました。二人で出かけることが多く、一緒によく写真を撮っていました。姉が高校性のとき、私が寂しがって、学校まで連れて行ってくれたこともありました。

ワヨミ:スリランカでは日曜日に、仏教文化に基づいたお寺の学校があり、姉はそこで先生として教えていました。小さい時から先生になりたがっていたので、ままごとでお母さんのスカートをサリーのように使って、姉が先生役をしたりしていたのを覚えています。

ウィシュマさんとの思い出を語る時、二人の表情が少しほころぶ

―亡くなったことを聞いて、率直にどう感じましたか?

ワヨミ:母も私たちも、信じられませんでした。知らされたのも、姉が亡くなった2日後でした。いつも姉は、この国(日本)は非常に安全で、人も優しく、心配いらない、ということばかり話していたんです。こんなにいい国で亡くなったなんて、誰かが作り話でもしているのではないか、人違いではないかと思っていたんです。少しでも情報がほしかったので、写真やビデオを見せて下さい、と求めました。けれども二週間経っても、何の手がかりもありませんでした。日本は嘘をつく国ではないと思っていたので、日本に行って確かめたいと思ったんです。

―日本に来て、入管の対応を受けた今、日本にどんな印象を抱いていますか?

ワヨミ:大変申し訳ないのですが、入管の職員を見ていると、私たちが信じているような国ではなく、嘘をついてだまそうとしているのだという印象を持ってしまいます。入管の職員と一般人とは、違った姿に思えます。

―ウィシュマさんが映っている監視カメラのビデオを開示しない理由として、「保安上の理由」が掲げられていますが、二人は施設の中に入って部屋を見ていますよね。議員や弁護士による視察は過去にもありましたが、それも「保安上の理由」で拒否されています。そうした入管の姿勢についてはどう感じますか?

ワヨミ:入管は何か隠そうとしているのではないかと思います。だから透明化しない、見せない……そうするほどに、入管が姉に何かしたのではないかという疑いが高まってしまいます。命の大切さへの敬意を持たない人たちだと感じます。

ポールニマ:自分たちが正しいのであれば、何も隠すことはないはずです。

―医師の診断書には、ウィシュマさんの「詐病」を疑うような記載がありました。

ワヨミ:姉は血を吐いているし、体重も20キロ近く減っています。食事もとれず、車椅子を使っていました。それをなぜ嘘、というのでしょうか。

真剣に二人の声に耳を傾けるせやろがいおじさん

―今後どんな対応を入管に求めますか?

ワヨミ:私たちが欲しいのは真実です。監視カメラの映像の開示と、真実を書いた報告書を求めています。私たちは家族です。姉がなぜこの短い期間で亡くなったのか、とても悔しく思っています。それを明確に教えてほしいのです。

―日本のメディアや関心を持っている人たちにどんなことを期待しますか?

ワヨミ:日本に来る人々は、日本が好きだから、愛しているから来ているんです。今後そうした人たちに、こうしたことが起きないことを願います。そうすることによって、日本に対する世界の信用は崩れないはずです。

    

―なかなかこうした問題に関心を持てない人に向けて、何か伝えたいことはありますか?

ワヨミ:私たちは人間と人間の交流があって生きています。スリランカと日本はとてもつながりが深く、かつてジュニウス・リチャード・ジャヤワルダナ大統領(スリランカの二代目大統領)もその交流のために、国境をこえた活躍をしました。

心を開いてお互いに交流しながら、本当の幸せをつかむこともできます。スリランカ人であっても日本人であっても、家族のように一緒になって、こういうことが起きないよう、事実を透明化していくことで、絆も深まります。スリランカは日本よりも貧しい国ですが、貧しい国の出身の人間だからといって、こうしたことをしてはいけない、ということも伝えたいです。

私たちの身に起きたことが、明日はみなさんの誰かが外国にいるときに起きるかもしれません。みなさんにも真実を知ってほしい、そのためにご協力をお願いしたいと思っています。

今回多くの団体や人々が協力して下さり、驚いています。こんなにも心の底から姉のために動いてくれる、全ての方々に感謝したいと思います。最後まで頑張っていきたいと思いますし、真実を確かめて、母の元に戻りたいと思っています。

―「見せて下さい」とお願いしなければならない状況が異常で、とても心苦しく思います。少なくとも僕も、ビデオが開示されて、真実が解明されるために、僕なりにできることをやっていきたいと思います。

ウィシュマさんの遺骨が永代供養されることになった明通寺には、故ジャヤワルダナ大統領の顕彰碑がある。

ウィシュマさんはDV被害から逃れ、警察へと出向き、在留資格がなかったことで入管に収容された。冒頭にも書いたように、生活の変化や困難を抱えた時などに、日本国籍以外の人々は在留資格を失ってしまうことがある。米国のバイデン政権はそうした人々に、「illegal alien」(不法在留外国人)などの呼称ではなく、「undocumented」(必要な書類を持たない)といった言葉を使う方針を示した。

ワヨミさんは、「ビザがないことによって死刑にするのでしょうか?こんなことが世界で起きるのでしょうか?」と問いかける。正規滞在に必要な書類だけを持っていないというだけで、人権が蹂躙されていいはずがない。市民社会への投げかけはもちろん、在留資格を失った人には何をしてもいいかのような入管行政の根本に、切り込んでいく必要があるはずだ。

(2021.5.29/ 写真・文 安田菜津紀)


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Dialogue for Peopleではウィシュマさんの名古屋入管での死亡事件、そして入管行政のあり方や問題点について記事や動画、ラジオで発信してきました。問題を明らかにし、変えていくためには市民の関心と声を継続的に届けていくことが必要です。この件に関する取材や発信は今後も行ってまいります。関連コンテンツを時系列で並べておりますので、ぜひご覧ください。

【事件の経緯・問題点】
「殺すために待っている」「今帰ることできません」 ―スリランカ人女性、ウィシュマさんはなぜ帰国できず、入管施設で亡くなったのか[2021.4.19/安田菜津紀]
「この国の崩れ方がここまできてしまったのか」―入管はなぜウィシュマさんのビデオ映像を開示しないのか[2021.5.18/安田菜津紀]
Radio Dialogue ゲスト:千種朋恵さん・鎌田和俊さん「ウィシュマさん死亡事件の真相究明と再発防止を求めて」(7/7)
いつから入管は、人が生きてよいかどうかを決める組織になったのか ーウィシュマさん死亡事件の解明求める署名活動はじまる[2021.7.12/安田菜津紀]

【報告書について】
ウィシュマさんを診療した医師は遺族に何を語ったのか ―「最終報告」に盛り込むべき3つの重要点[2021.7.5/安田菜津紀]
Radio Dialogue ゲスト:中島京子さん「ウィシュマさんの報告書とビデオ開示から考える収容問題」(8/18)

【入管行政の問題点・入管法改定など】
入管法は今、どう変えられようとしているのか? 大橋毅弁護士に聞く、問題のポイントとあるべき姿[2021.3.22/安田菜津紀]
「仲間ではない人は死んでいい、がまかり通ってはいけない」―入管法は今、どう変えられようとしているのか[2021.4.12/安田菜津紀]
「“他人が生きていてよいかを、入管は自由に決められる”というお墨付き」―入管法が変えられると、何が起きてしまうのか[2021.5.7/安田菜津紀]
在留資格の有無を「生きられない理由」にしないために ―無保険による高額医療費、支援団体が訴え[2021.6.7/安田菜津紀]

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