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【イベントレポート】「命の尊厳を見つめる D4P Report vol.5 年末活動報告会2023」(2023.12.17)

12月17日(日)、「命の尊厳を見つめる~D4P Report vol.5 年末活動報告会」をYouTubeLiveにて配信しました。2023年も「人権」や「命の尊厳」をテーマに、世界各地の問題を取材・発信してまいりました。また、これまで佐藤と安田の2名体制だった事業部に新しいメンバーを迎え、これまで以上の取材・発信、継続的な体制の構築へ大きな一歩を踏み出すことができました。本配信では、国内外の取材発信を中心に、Dialogue for Peopleの2023年の活動をお伝えし、最後には、今後の展望として2024年の活動についてもお話しさせていただきました。

さまざまな媒体を通した発信事業

2023年、D4Pでは、62本のWEB記事投稿、71本のYouTube取材動画投稿を行いました(2023年11月末時点)。WEB記事では国内・世界各地の現状や問題を伝えるとともに、小説家・深沢潮さんによるエッセイ『李東愛が食べるとき』の連載を開始、Youtube動画では入管法改定に関する法務大臣会見の模様をお伝えするなど、新たな試みも行いました。

また、Youtube動画の中でも柱となっている毎週水曜配信『Radio Dialogue』では、2023年も様々なゲストをお迎えすることができました。

歴史家・高橋博子さんをお招きした配信回では、広島市で使用されていた小学生の平和教育教材から『はだしのゲン』が削除された問題に触れ、歴史の継承について考えました。「“過去に起きたことを繰り返さないために何が必要なのか、どんなアクションを起こすべきか、思考を止めずに考えていくための土台を作るのが教育の役割である”にも関わらず、現在の社会の動きに対して、非常に危機感を覚えた回であった」と安田は振り返りました。

思い出野郎Aチーム・高橋一さんをお招きした回では、社会に存在する問題を知るだけではなく、アクションを起こすこと、声を上げることの大切さを考える時間となりました。いまだ政治に対して声を上げることをタブー視する傾向にある社会ですが、「全てのことは政治的なことであるという前提に立った上で、本来、声を上げることは自然なことだと自身も考えさせられた」と安田は語りました。

そして、WEB発信以外にも、他団体との連携やテレビ出演、PodCastなどを活用し、さまざまな媒体を通じた発信活動を行ってまいりました。これまでの戦争に加え、大きな自然災害に見舞われたシリアや、小規模な衝突の続くイラク、民主化運動から現在までを取材した韓国・光州での様子をフリーマガジン『Voice of Life』5号、6号として刊行いたしました。さらに、昨年から訪問を重ねていた韓国の取材、安田菜津紀の父のルーツをめぐる旅は、ついに書籍となりました。

若手発信者発掘育成事業に関わるイベントの開催

次世代の発信者を育成するために行ってきた D4Pの【若手発信者育成事業】。2023年は3月に『東北オンラインスタディツアー』、8月に『メディア発信者集中講座』の2つのイベントを開催いたしました。

『東北オンラインスタディツアー』には、全国の高校生や大学生38名が参加。当日第一部では、岩手・宮城・福島の語り部の方々をオンラインでつなぎ、「東北の今」についてお話いただき、第二部では参加者同士で語り合う場を設けました。震災から12年の月日が経過し、被災に対して様々な考えや受け止め方がある中で、改めて「復興」という言葉の意味を考える参加者たちの姿に、本イベント通じて、これから何を伝えていくのか、私たち自身も多くの気づきをいただきました。

また、8月に開催した【若手発信者育成事業】『D4Pメディア発信者集中講座』 は、6つの講義と参加者による作品発表を合わせた3日間のプログラムとなり、23名の若者世代に参加していただきました。本イベント終了後には、参加者の皆さんからもたくさんの声をいただき、今後のプログラムへの反省や学びをいただきました。学びを提供するだけではなく、我々も学びをいただく場として、「双方向の学び」を大切にしながら、今後も本講座を継続してまいります。

安田菜津紀・裁判進捗

D4P副代表・安田菜津紀のネットヘイトに関する裁判がいくつか進んでおり、そちらに関する報告もいたしました。進捗中の裁判のうち一つは、2023年6月に地裁判決が確定し、賠償命令が出たものの、被告が控訴を行いました。同年11月に控訴審は結審し、2024年2月21日に判決が出る予定です。今後とも、こうした裁判や関連の発信を通じて、「いかに差別が社会を分断し、壊すのか」、悪質な差別扇動の問題・構造に関する問題提起をしてまいります。

国内における取材事業

本年も、D4Pとして継続的に取り組んできたテーマや地域で取材を続けることができました。

佐藤からは、福島・沖縄での取材についてお伝えしました。これまでも、東日本大震災にて行方不明となった娘の遺骨を探し続ける木村紀夫さん、そしてその捜索活動に参加する、沖縄で戦没者遺骨収集を行う具志堅隆松さんについて発信してきましたが、2023年の5月には新たな遺骨が見つかりました。しかし、遺骨が見つかった喜びは束の間、「娘の骨がこんなに小さくなってしまうほど、ここで酷いことが起きたのか」と決して単純な言葉では表せない感情が木村さんに押し寄せます。「この社会では、いかに国策により犠牲となった人々が見えない存在(もの)として扱われているのか、国策と個人の尊厳の問題を考えさせられる」と佐藤は語りました。

そして、2023年3月に入職した田中からは、ジャーナリストが受ける惨事ストレスと、今から約50年前に原子力発電の安全性を問う学校新聞を発行した、かつての高校生への取材について報告いたしました。特に東日本大震災以降、認識されてきたジャーナリストの惨事ストレスですが、取材した田中は「ある人にとっては一見小さなことでも、心が傷つく可能性は大いにある」という専門家の言葉を紹介し、「同僚や周りの家族が支えたり、組織内でもそうした認識やケア、対策が求められている」と語りました。また、約50年前に発行された学校新聞は、今見てもなお、客観的事実をもとに原発の安全性に関する議論がしっかりまとまっており、震災と原発事故を経験した私たちにメッセージを投げかけます。


最後に、安田より改定入管法についてお話しいたしました。様々な人道上の問題が指摘され、また社会からも多くの反対を求める声が上がっていたにもかかわらず、杜撰な審議のまま、2023年6月に改定入管法が可決成立しました。また、2021年に名古屋入管で亡くなったウィシュマ・サンダマリさんのご遺族による裁判が進んでおり、その過程では、ウィシュマさんが最期に過ごした居室の監視カメラ映像の一部が公開されました。繰り返される入管内での死亡事故、そして今回の入管法改定により、「入管の権限が分散され、内部が透明化されるのではなく、むしろその権限は強まり、取材を続ける一人として非常に強い危機感を募らせている」と安田は語りました。

国外における取材事業

そして、国外での取材事業としては、イラク・シリア、韓国、フィリピンでの取材について報告いたしました。

佐藤からは、2023年3月に取材したイラク・シリアについてお話いたしました。イラクでは、継続的に取材してきた、アンファール作戦(サダム・フセイン政権時、主にクルド人を標的に行われた虐殺)で被害に遭われた方や後遺症に苦しむ方への取材を行いました。そしてシリアで取材した、トルコとの国境付近に位置する北部の街・コバニは、長年の戦争の爪痕が残る中で、2023年2月6日に大地震に見舞われた地でした。取材時はクルドの新年の時期とも重なり、炎を囲み、新たな年の始まりを祝う人々の営みが垣間見えましたが、そのような時間や日常すらも「戦争」によって壊され、奪われてきました。

そして、安田より韓国・光州で取材した民主化運動について報告いたしました。現地では、当時の様子を伝える資料館のガイドや民主化運動に関わった方々に案内いただき、主体的に民主化運動に携わった女性たちの姿や、その後残された人々が辿ってきた道を取材しました。その中で、ある女性は「運動に関するデマが飛び交う状況で、自分が声を上げ、証言するしかなかった」と語りました。なぜ、このようなデマがいまだに流布されるのか。その背後には、軍事独裁政権、日本の植民地支配と地続きの構造があり、光州民主化運動の問題を、海の向こうの話として切り離すのではなく、私たちの問題でもあるという視点から考える必要があります。

また、田中からは10月に行ったフィリピン取材に関して報告いたしました。現地では、太平洋戦争中に日本軍によって「死の行進」が行われたバタアン半島やマニラ市街戦の跡地、慰霊碑を訪ね、日本軍による戦争加害について取材しました。そこには、近い国でありながら、現地で跡を辿ることで初めて知るフィリピンと日本との歴史がありました。これからの平和と共存を考え続けるためには、過去に目を向けることが大切であり、引き続き関連した取材・発信をしていきます。

そして、2023年10月以降の情勢を受け、パレスチナの現状についても触れました。今回パレスチナで起きている問題は、決して今に始まったことではなく、そこにある権力勾配、搾取、人種差別などの問題を世界が見過ごしてきた結果として存在します。これまでも D4Pでは関連する取材・発信をしてきましたが、連日現地取材パートナーからも悲痛な声が届いています。

最後に、ザンビアにてストリートチルドレンの支援を行う、現地取材パートナー・ヴァスコさんからのボイスメッセージをお聞きいただきました。D4Pの取材・発信は、現地で問題に向き合う方々のご協力があり、こうして様々な声が届けられるということをお伝えしました。

2024年の活動について

報告会の最後には、2024年の活動についてもお話しいたしました。報告会内でも紹介した【若手発信者育成事業】のひとつである『東北オンラインスタディツアー』に関しては、2024年は開催せず、震災から12年以上が経過し、様々な変化がある中で、本イベント通じて何を伝えていくのか、構成や内容を再検討いたします。また『メディア発信者集中講座』については、今回いただいたフィードバックや反省を生かしつつ、今年夏の第4回開催に向けて計画を進めております。

そして、イベントのみならず、国内・国外の取材も精力的に続けてまいります。国内では、いよいよ改定入管法が施行となりますが、引き続き入管や難民問題をテーマに、人々の人権や日常に寄り添った発信を行ってまいります。また、原発事故と人々の営み、防災についても、引き続き焦点を当て続けていきます。国外では、まさに起こっている戦争として中東・パレスチナやウクライナ、そして日本の戦争加害についても、フィリピンなどでの取材・発信を軸に続けてまいります。

さらに、リスナーの皆さんとともに歩んできた、毎週水曜配信『Radio Dialogue』が近日150回目の放送を迎える予定です。今後も、 D4P、ゲストの方々、リスナーの皆さんがつながる場として、配信を継続してまいります。

また、「改定入管法」をテーマにした安田菜津紀執筆の児童書も刊行予定です。人々の声に触れながら入管の問題を考える一冊として、ぜひお手に取っていただければ幸いです。

2023年も様々な問題に焦点を当て、人々の声に耳を傾けながら、取材・発信を続けることができました。2024年、Dialogue for Peopleは、みなさまのご支援のおかげもあり創設5周年を迎える予定です。改めて、いつも温かいご支援をいただき、本当にありがとうございます。

現在も世界各地では様々な問題が起き、悲しいニュースや声も届きますが、Dialogue for Peopleでは一人ひとりの「命の尊厳」を大切に、取材・発信を続けてまいります。今後ともどうぞ、よろしくお願いいたします。

ご視聴頂いたみなさま、誠にありがとうございました。

(2023.12.26/文 Dialogue for People インターン 飯倉芳果)

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