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取材レポート

2021.10.5

「吐いた直後にまた、口に物を入れられる」ウィシュマさんのビデオを見た弁護団が語ったこと

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2021.10.5

取材レポート #収容問題 #人権 #安田菜津紀

2017年6月、慌ただしい出発の日を、ウィシュマ・サンダマリさんの妹、次女のワヨミさんは振り返る。「姉は中々荷物がまとまらず、“これ貸して”、“これも持っていかせて”と、私たちのTシャツやワンピースまでトランクに詰め込んでいました」。一家総出で空港に見送りに行き、涙が止まらない母を気づかいながら、ウィシュマさんは手をふり、ゲートの向こうに姿を消していった。その時の様子を、ワヨミさんは今でもありありと思いだすという。腰の高さまである紺色のスーツケースと、ワヨミさんが贈ったアニメ柄のハンドバッグには、いっぱいの荷物と共に、新しい生活への期待が詰まっていたはずだ。その4年後、亡くなった姉のスーツケースを引き取りに、自身も日本に渡航することになるとは、この時の妹たちにはまだ、予想もできなかっただろう。
 

旅たちの日、コロンボの空港でのウィシュマさん(ご遺族提供)

こうしてウィシュマさんは、英語教師を目指して来日したものの、その後、学校に通えなくなり在留資格を失ってしまった。昨年8月に名古屋入管の施設に収容されたが、同居していたパートナーからのDVと、その男性から収容施設に届いた手紙に、「帰国したら罰を与える」など身の危険を感じるような脅しがあったことで、帰国ができないと訴えていた。

8月10日、入管庁はこの事件についての「最終報告書」を公表したものの、ウィシュマさんが亡くなったことと、収容の因果関係についても触れず、「医療体制の制約」や「職員の意識」など、表面的な問題をなぞるのみに留り、内輪調査の限界が露呈した。
 

9月25日、真相解明と、居室を映した監視カメラ映像の開示を求めるデモが全国各地で行われた。東京・法務省前にて。

そして、ウィシュマさんの居室を映した監視カメラの映像、約2週間分を、入管側はその映像を約2時間に切り縮め、8月12日、遺族のみに開示を行った。しかしその場に、代理人である弁護士の同席は認められなかった。

つまり、異国の地で頼りにしてきた、正式な代理人である弁護士たちから引きはがされ、死の責任があるはずの入管側が編集した、姉が苦しみ亡くなっていくビデオを見なければならなかったのだ。ワヨミさんは何度もトイレで吐き、三女のポールニマさんも涙が止まらなくなったという。1時間強ほど映像を見終わった時点で、遺族はやむなく外に出てきた。

「狭い部屋に入ると、姉の“たんとうさーん、たんとうさーん”という助けを呼ぶ声が頭の中に響いてくるんです」。ワヨミさんはその後、眠れない日々が続くことを明かしていた。心労は限界に近づいていた。9月23日、ワヨミさんは、やむなく帰国を決めた。真相究明のため、引き続き働きかけていくと語ったワヨミさんは、同時に「姉に起きたことが二度と起こらないように」と、せめて教訓にしてほしいという願いを語った。
 

スリランカへと、帰国の途についたワヨミさん

現在、民事訴訟などを進めるための弁護団が立ち上がり、児玉晃一弁護士が事務局長となっている。弁護団は、裁判所の手続きである「証拠保全」のために、裁判官、ポールニマさんと共に名古屋入管に9月24日に名古屋入管に踏み込んだ。「証拠保全」とは、国家賠償請求訴訟に先立ち、改ざんや隠匿を防ぐための手続きだ。ただ、この日はビデオ確認には至らず、10月1日、名古屋地裁での長時間の押し問答の末、ようやく映像を裁判官と共に確認するに至った。今後、映像は裁判を通して、全時間分が開示される見通しだ。

10月5日、弁護団とウィシュマさんの妹で、三女のポールニマさんが会見に臨んだ。
 

議員会館での弁護団の記者会見。左から児玉晃一弁護士、駒井知会弁護士、指宿昭一弁護士、ポールニマさん

遺族代理人を務める駒井知会弁護士によると、2月26日、ウィシュマさんはトイレに自分で行こうとしたのか、体が動かないなりに勢いつけて起きあがろうと無理をし、そのままバランスを崩してベッドから落ちたようだったという。「私たちも頑張るけれど、あなたも頑張るのよ、と動けなくなっているウィシュマさんにしきりに呼びかけているのは残酷でした」。結局ベッドの上には戻せず、毛布はかけたものの、床の上に寝かせたまま、二人の職員は部屋を去っていった。

指宿昭一弁護士は、「職員の力でベッドに戻そうとしていたようには見えませんでした。力を貸しながら、あくまで自分でベッドに戻れと命じていたような状況でした。そういう意味で、“戻せなかった”という最終報告書の記述は間違いだと思います」と語る。

そして3月3日の夕方、食事の様子を見た駒井弁護士は、「青いバケツに吐いてしまっても、口をぬぐった直後に職員がスプーンを持ってくるんです。それを含むんでも、また吐いてしまう。吐いて、うがいをさせることもなく口の中に物を入れられるんです」と凄惨といえる状況を語った。

同じ場面について指宿弁護士は、「食べたら元気になるからね、と職員が言っていたのでですが、こんな状態で食べても元気になるはずはない。なぜこの状況で点滴をしないのか、それが理解できません」。

ちなみにこの場面は、最終報告書では「食べた」としか書かれていない。
 

駒井弁護士が再現した、食事の場面の様子

さらに衰弱していったウィシュマさんは、上半身を起こしても首が座らず、首ががくんと後ろにうなだれてしまう様子も見受けられたという。「あの状況で体を起こしても危ないのではないかと思います。完全介護を必要する状況で、介護のプロでもない人が介護をしている時点で虐待だと思います」と指宿弁護士は指摘する。

3月5日夜からは、ほぼ反応を示さず、顔の前で職員が手を振って確かめている様子が映っていた。最終報告書では亡くなる前日、「“あー、あー”と声を出していた」という記載になっていた部分も、高い声で、叫びのような響きだったという。

児玉弁護士は、2014年に牛久の東日本入国管理センターの収容施設で亡くなったカメルーン人男性の遺族の代理人も務めている。男性の居室のビデオには、「I’m dying!」と叫び、のたうち回る様子が映っていた。「ウィシュマさんの映像は、それとは違う意味でショックでした。あまりにも動かない、最後には首以外殆ど動かない。事前に知らなければ、33歳の女性だとは誰も分からないでしょう。入管の中に入れていること自体が誤りです。こういう人を外に出さなかったのが根本的に間違っている」

ポールニマさんは、「3月5日の時点で救急車を呼んでいたら、姉は助かったと私は思います。ビデオには、最終報告書に書かれていないことがたくさんあります。報告書は信用できないので、ビデオの全面開示を求めます」と強く訴えた。

弁護団によると、入管側は当初、「保安上の理由」から①鍵、②窓、③入管職員・被収容者の顔は見せられないとしていたが、①と②はビデオの端の方を映らないように対処した上、③はそのまま見ることができたという。ただ、ビデオは部屋の上から撮影しており、職員も帽子をかぶっていることから、職員の顔はモザイクがなくても見えなかったという。これまでの「保安上の理由」とは何だったのか。「私たちが見て問題のない形で再生できるのですから、同じ形で国会議員にも見せることができるはずです」と指宿弁護士は指摘する。

10月4日に就任したばかりの古川禎久法務大臣は、5日の会見で遺族との面会について、「証拠保全手続きが進んでいる状況であることなどを十分考慮して判断していく」と明言は避けたが、証拠保全と面会の可否にどのような関連があるのかについては回答がなかった。また、ビデオ開示についても「保安上の問題に加えて、亡くなられた方の名誉尊厳の問題もありますから、代理人弁護士の方も含めて、映像を公開することは適当ではない」と上川大臣が繰り返してきた言葉を踏襲した。裁判で開示される見通しと報じられていることについても、「仮定でのお答えは差し控えたい」とした。
 

大臣就任後、初会見に臨んだ古川禎久氏

ウィシュマさんについては「日本が好きで日本に来られた方が、このような形で命を落とされたことについては、日本人の一人として大変辛い気持ちで、申し訳ないと言ったらいいのか…」という言葉も聞かれたが、日本が好きであってもそうでなくても、守られるべき人権があることに変わりはないはずであり、責任あるはずの法務省が「辛い気持ち」等、他人事のような言い方であっていいのだろうか。

古川大臣の回答にあるように、ビデオ開示に応じられない理由として、入管庁側は「亡くなった方(ウィシュマさん)の名誉・尊厳」や「保安上の理由」を挙げてきたが、死の責任があるはずの側が一方的に「名誉・尊厳」を謳うのは矛盾が過ぎるだろう。弁護団が語ったビデオの内容を考えれば、開示に応じられなかった理由は「保安上の理由」ではなく、組織の「保身上の理由」ではないのだろうか。

裁判の過程でビデオが開示されるのには、まだ多くの時間を要する見通しだ。遺族は5月1日に来日し、ポールニマさんは真相究明のために日本にとどまり続けている。不都合の隠蔽の上に、「再発防止策」は到底築けない。裁判前の適切なビデオ開示と透明化以外、今後の方針を根本から組み立て直す道は残されていないはずだ。
 

(2021.10.5 / 写真・文 安田菜津紀)

 


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Dialogue for Peopleではウィシュマ・サンダマリさんの名古屋入管での死亡事件、そして入管行政のあり方や問題点について記事や動画、ラジオで発信してきました。問題を明らかにし、変えていくためには市民の関心と声を継続的に届けていくことが必要です。この件に関する取材や発信は今後も行ってまいります。関連コンテンツを時系列で並べておりますので、ぜひご覧ください。

【事件の経緯・問題点】
「殺すために待っている」「今帰ることできません」 ―スリランカ人女性、ウィシュマさんはなぜ帰国できず、入管施設で亡くなったのか[2021.4.19/安田菜津紀]
「この国の崩れ方がここまできてしまったのか」―入管はなぜウィシュマさんのビデオ映像を開示しないのか[2021.5.18/安田菜津紀]
Radio Dialogue ゲスト:千種朋恵さん・鎌田和俊さん「ウィシュマさん死亡事件の真相究明と再発防止を求めて」(7/7)
いつから入管は、人が生きてよいかどうかを決める組織になったのか ーウィシュマさん死亡事件の解明求める署名活動はじまる[2021.7.12/安田菜津紀]

【報告書について】
ウィシュマさんを診療した医師は遺族に何を語ったのか ―「最終報告」に盛り込むべき3つの重要点[2021.7.5/安田菜津紀]
「真実を知るためなら、何でも行う」―ウィシュマさんについての「最終報告書」は何が問題か[2021.8.11 /安田菜津紀]
Radio Dialogue ゲスト:中島京子さん「ウィシュマさんの報告書とビデオ開示から考える収容問題」(8/18)

【入管行政の問題点・入管法改定など】
入管法は今、どう変えられようとしているのか? 大橋毅弁護士に聞く、問題のポイントとあるべき姿[2021.3.22/安田菜津紀]
「仲間ではない人は死んでいい、がまかり通ってはいけない」―入管法は今、どう変えられようとしているのか[2021.4.12/安田菜津紀]
「“他人が生きていてよいかを、入管は自由に決められる”というお墨付き」―入管法が変えられると、何が起きてしまうのか[2021.5.7/安田菜津紀]
在留資格の有無を「生きられない理由」にしないために ―無保険による高額医療費、支援団体が訴え[2021.6.7/安田菜津紀]
いま、「難民」について知る―国内外の支援の現場から[2021.8.23 / 佐藤慧]
なぜ、入管内の暴力は繰り返されるのか? 牛久入管で警備員の暴行を受けた男性が語ったこと[2021.10.4 /安田菜津紀]
 
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