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2019.12.20

2019冬特集|【レポート】暮らしを見つめ直す冬

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2019.12.20

Report #others

2019年冬、Dialogue for Peopleでは「誰かの暮らしに思いを馳せる」をテーマに、シリーズで情報を発信するとともに、厳しい冬の環境に生きる方々への取材など「伝える」活動を継続するための寄付を広く募集しております。一年を振り返る12月、ご自身の過ごした毎日とともに、写真や文章に登場する方々の暮らしに思いを馳せていただくことで、世界への関心が広がることを願っています。

今回は、台風19号から2ヶ月が経過し冬を迎える被災地を訪れ、生活再建の状況をお伺いしました。


各地に甚大な被害をもたらした台風19号。発災から2ヶ月が経過し、被災地域に本格的な冬が訪れようとしている。

発災から2ヶ月経った長野県穂保地区。工事が完了した堤防からまちを望む。

「しばらく休みもなく走り続けてきたのでね。先日ようやく髪をきることができました」と話すのは、栃木県佐野市社会福祉協議会 事務局長の五十畑正夫さん。伺った11月下旬はちょうど訪問調査が佳境に入るところだった。

「報道などではなかなかこの辺りの様子は伝わっていないと思うのですが…何しろ初めての被災で、とにかくできることをやってきました。今は冬を前に、まだ作業系のニーズがないかを戸別訪問で聞き取っている状況です。これから(みなし)仮設に入居される方もいらっしゃるのですが、同じお宅を補修して住み続ける方や、もともと福祉的なサポートの必要性がある方も含め、我々としてどんな風に寄り添っていけるか、考えているところです」。

佐野市社会福祉協議会の五十畑局長。

支援現場では、「冬がくる前に」という掛け声のもと、各地で水に浸かってしまった家財など災害廃棄物の撤去作業や、床下や農地などの泥出し作業にあわせて、佐野市のような戸別訪問型のニーズ調査が行われている。各地のボランティアセンターは週末型への移行や、災害の看板を下げて通常のボランティアセンターでの対応、専門性をもった支援団体との協働体制を敷くなど、支援局面の移り変わりを迎えているようだ。

「最初にいた避難所を、突然移動することになって。あわてて荷物をまとめて、集約されたこの場所に来たんだ。でもこの避難所もまた、今月中に閉まってしまう。なんだか落ち着かなくてね」。

長野の避難所でお話を伺った方は、肩を落としながらこう話す。被災から一続きの生活がここにはあった。それぞれの暮らしを立て直すために必要な時間は、型にはめて考えられるものではない。

避難所に大きく貼り出された閉所を知らせる文書。奥にも様々な制度の案内が掲示されている。

災害に見舞われた際、一般的にまずは被災状況を証明するための書類=り災証明書が市町村から発行され、これを主な基準として各種支援等が行われる(※1)。この中で示される被災状況(全壊、大規模半壊、半壊、一部損壊など)に基づいて支給されるのが、被災者生活再建支援金や義援金であり、世帯の中でお亡くなりになった方がいた場合は災害弔慰金が支給される。その後、元の住まいをどうするのか(公費解体/応急修理)、新しい住まいをどうするのか(応急仮設住宅/土地区画整理事業)などの話が出てくる。
これらの制度は複雑で、災害によって条件が異なり、また、すべての人にすべての制度が適用されるわけではない。それでも、予めそうしたものがあるということを知っていることで、少しでも再建に向けた選択肢や望みをもつことができるのではないだろうか。

災害からの生活再建支援制度に詳しい、そらうみ法律事務所の在間文康弁護士は、「こうした困りごとを抱えた時、弁護士が相談相手になれることを広く伝えていきたい」と語る。

「弁護士というとやはり、裁判や訴訟など、問題が発生してからたどり着く先というイメージが強い方が多いかもしれません。でも私たちは、普段から法律や制度と付き合って仕事をしているので、こうしたとき、その人に寄り添って、それぞれの事情に合った支援策を柔軟に考えることができます。もちろん制度の壁に阻まれることはありますが、その声をまとめて、意見書として提出することもできる。一人の方の困りごとに、多くの方の困りごとを解決する大きなヒントが隠されていることだってあります。それが将来、誰かの命を救うこともあるかもしれない。制度や法律と人の間に立つ役割として、弁護士ができることはまだまだあると思うんです」。

兵庫県出身で、高校生で阪神・淡路大震災を経験。東日本大震災の時は、2012年に岩手県陸前高田に赴任し、被災者に寄り添った弁護士活動を続けてきた。(写真提供:弁護士法人空と海)

人の生活とは、非常に多様なものである。その延長線上に災害が起きるのであれば、 被災というものは、本来とても個別具体的なものだ。一方、制度やルールというものは、公平性の名の下に、少数で声が上がりにくい問題を”個別事例”として対応を見過ごしてしまう場合がある。

「東日本大震災のときから、『災害関連死』の事案を多く担当してきました。これは、内閣府の定義(※2)で言うと“当該災害による負傷の悪化又は避難生活等における身体的負担による疾病により死亡”された方を災害に関連してお亡くなりになったことと認定し、弔慰金などの支給の対象にする、というものです。ご家族と一緒にそれぞれの市町村を相手に申し入れをして、不認定だったものが覆ったケースも多数ありました。
今必要だと感じているのは、そもそも関連死のきっかけをつくってしまった背景や理由を分析し、それを予め防ぐ策を講じていくことです。“車中泊を避ける”など医療面・身体面からのアプローチは幾つかありますが、法律や制度についてはまだあまり対策が練られていないように思います。例えば事業者の方が被災されたときに、生業自体を立て直すことを支援するスキームが極端に少ないことによって、収入が途絶えてしまうことが大きな心労となり、関連死の原因になってしまった事例があります。『2度と同じ思いはしてほしくない』。これは被災をされた方だれもがおっしゃる言葉です。この言葉を聴いた者の責任として、個別事例を個別事例で終わらせず、どうやったらその人の命を救えたのだろうか?次に同じ状況になってしまう人をなくすためにはどうすればいいのか? 真剣に考え、議論を広げていきたいと思っています」。(在間文康弁護士)

時間の経過は必ずしも、復旧・復興の進捗ではない。冬が来た後も、暮らしは続いていく。
被災された方の置かれている状況や心持ちを“完全に”理解することは難しいかもしれない。しかし、私たちは彼らの声から“想像”することができる。そして防げたはずの同じことが繰り返されないよう、学ぶことができる。自分の暮らしに置き換えてみることで、気になる事項が増え、気になる人が見えてくる。
まずは私たち自身の暮らしを見つめ直すことが、大きな意味で被災地や世界を思うことにつながるのかもしれない。この冬、ぜひそんな時間を設けていただけたら幸いである。

1ヶ月の間にりんごの実はますます赤く、葉は黄色く色づいていた。台風19号による農作物等の被害総額は約150億円にのぼるとされており、離農が懸念される一方、地元有志による農業の再開に向けた取り組みも始まっている。

(2019.12.20/写真・文(Dialogue for People事務局)舩橋和花)

※1 罹災証明書の詳細はこちら。必ずしも全ての支援が対象ではないが、行政の支援制度はこの証明書を前提としたものが多い。
※2内閣府による定義は次のとおりである:「○災害関連死:当該災害による負傷の悪化又は避難生活等における身体的負担による疾病により死亡し、災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和48年法律第82 号)に基づき災害が原因で死亡したものと認められたもの(実際には災害弔慰金が支給されていないものも含めるが、当該災害が原因で所在が不明なものは除く。)」(詳細はこちら


Dialogue for Peopleでは、難民キャンプなど冬の厳しい環境に暮らす方や、発災から時間が経過する中で被災地がどのような冬を迎えているかを取材し、継続して発信を行ってまいります。この活動は皆様のご寄付に支えられています。何卒あたたかなご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。

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2019.12.20

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