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取材レポート

2021.5.18

(5/18追記)「国際人権法さえ守っていたら、ウィシュマさんは今日も笑顔を見せてくれていたかもしれない」

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2021.5.18

取材レポート #法律(改正) #安田菜津紀

スリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が名古屋出入国在留管理局(以下、名古屋入管)の収容施設で亡くなってから、2カ月以上が経っている。英語講師を夢見て来日後、学校に通えなくなり、昨年8月に施設に収容された。その背景には、同居男性からのDVがあったことが、ウィシュマさん自身が記した言葉や、支援者への証言から明らかになっている。スリランカに帰国すれば殺す、という脅しまで届き、帰れない事情を抱える中でも、収容を解かれることはなかった。亡くなる直前には歩けないほど衰弱していたとされるが、点滴などの措置は最後まで受けられなかった。
 

生前のウィシュマさん(ご遺族提供)

5月10日、参議院議員会館で開かれた「難民問題に関する議員懇談会(難民懇)」では、在宅医療専門の医師、木村知さんへのヒアリングが行われた。

木村さんは「法医学や救急医学の専門的トレーニングを受けたわけではなく、一般的な医療行為についての所感をお話したい」、と前置きした上で、「医療へのアクセスがいいと言われる日本で、あまりにもありえない事件」とした。「体重が減り、摂食状況も著しく悪化している中で、なぜもっと医療にアクセスさせなかったのか。血液検査の回数があまりにも少ないのではないか。その中でなぜ精神的なものだと断定してしまったのか、そこに違和感を覚える」。入管の「中間報告」によると、1月末に受けて以来、亡くなるまで血液検査は行われていない。
 

オンラインでヒアリングに応じた木村知医師

また、死亡後の血液検査の結果については、死後変化に注意する必要があるとしつつ、「栄養状態は極めて不良だったはず。また血糖値を見ると、潜在的な糖尿病があった疑いが捨てきれない」と語った。

加えて、「中間報告」によると、亡くなる2日前に精神科を受診し「クエチアピン」を処方されているが、この薬の処方は、「糖尿病の既往がないか、現在治療していないかなどと合わせ、必要に応じて採血するなど慎重に判断した上でなされるべきだ」とした。
 

亡くなった直後のウィシュマさんの血液検査の値

ウィシュマさんの死の真相が解明されないままに、現在国会では、衆議院で入管法改定案が審議入りしている。法案の問題点については『入管法は今、どう変えられようとしているのか?大橋毅弁護士に聞く、問題のポイントとあるべき姿』( https://d4p.world/news/9519/ )にまとめている。

この法案の中に、医療者ではない入管施設の所長が医師に指示し、本人が拒否をしても強制治療させるといった条文が含まれている。木村さんは「医療を受けさせること、それを強制すること、あるいは妨害するのも、入管の施設の裁量にするのはおかしいのでは」と語った。

2007年以降だけでも、入管施設でウィシュマさん含め17人の方が亡くなっている現状を考えれば、必要なのは医療へのアクセスに入管の権限を強めることではなく、むしろ入管が医療につながるための障壁となっている仕組みを変えていくことではないだろうか。
 

ウィシュマさんの遺品。紙のハートやケースが細やかに織られていた。

5月1日に来日し、現在コロナ禍による自主隔離期間中のウィシュマさんの妹、ワヨミさんとポールニマさんも、この日取材に応じてくれた。

「姉は小さな子どもたちと絵や漫画を描いたり、勉強を教えたりするのが好きでした。姉と一緒に過ごした全ての時間が大切な思い出です」と語る。父親が亡くなってからはウィシュマさんが家族を支え、二人にとって「母のような存在」だったという。日本に来てから受け取ったウィシュマさんの遺品の中には、かつて3人で共有していた服もあり、日本までそれを持ってきていたことに「自分たちへの愛情を感じた」という。
 

取材に応じてくれたワヨミさん(左)とポールニマさん(右)

ウィシュマさんが日本に行くと決めた時、「日本という国は安全な国だからと、母も反対せず、小さい頃から姉の憧れだった国に行けることを、私たちもうれしく思っていました」と振り返る。「日本に渡ってからも、街がきれいで、人も優しいと、いいことばかり連絡がありました」。

ウィシュマさんが亡くなる前、しばらく連絡が取れないことを心配しつつも、「それでも日本にいるのであれば安全だと思っていました」という。ところが、スリランカの警察を通し、突然にウィシュマさんの死を知らされることになる。ウィシュマさんが日本の入管施設に拘束されたことも、その後亡くなったことについても、入管から遺族への直接の説明はなかった。「責任のある国、責任ある場所でこんな無責任なことをされるのは、とても悲しい」。上川法務大臣が、二人と面会をしない意向を示していることについては、「質問にしっかり答えられないから、説明ができないから、私たちに会えないのではないでしょうか」と語る。
 

ウィシュマさんのノートには、「食べない」など切実な思いが記されていた

また、入管側は、ウィシュマさんが映っているとされる監視カメラの映像を「保安上の理由」「プライバシー」などを掲げ、遺族にも開示していない。二人は自主隔離期間後、来週にも名古屋入管を訪れたいという意向だ。「まず、姉がいた場所を真っ先に見たいです。責任者の人とも話し、質問をしたい。防犯カメラの映像も必ず見せてほしいです」。

ワヨミさん、ポールニマさんともに何度も語っていたのは、「人間を人間として扱ってほしい」ということだった。収容や解放の判断に司法の介在がなく、収容期間の上限もない現状が、昨年、国連人権理事会の「恣意的拘禁作業部会」から「国際法違反」と指摘されている。遺族側の代理人を務める駒井知会弁護士は、5月6日に開かれた記者会見の中で、「法務省が、入管庁が、国際人権法さえ守っていたら、ウィシュマさんは今日も生きて明るい笑顔を見せてくれていたかもしれません」と語っていた。

国の管理下である施設で人が亡くなり続けながら、その検証を蔑ろにし、さらなる権限を入管が得ることがあってはならないはずだ。拙速な法案の審議ではなく、今求められているのは、一度立ち止まり、根本から国際基準の仕組みを築くことではないだろうか。

(2021.5.11 / 写真・文 安田菜津紀)

 

(2021.5.18 追記)
5月16日にウィシュマさんの葬儀が行われ、翌17日、ウィシュマさんの妹さんたちが名古屋入管を訪れました。ウィシュマさんが亡くなった時に収容されていた部屋の視察にあたっては、代理人弁護士の同行は認められず、通訳も入管側が依頼した通訳でなければいけないという方針は覆りませんでした。ここでも掲げられたのは「保安上の理由」です。
 
その名古屋入管面談時の音声記録を代理人弁護士の方々からご提供頂きました。妹のワヨミさんは、「亡くなって 2ヵ月以上経っているのに、どうしてまだ調査が終わっていないのですか?スリランカが、お金のない国だからこのような対応するのですか?」と質問を投げかけます。音声全編はこちらから↓↓

 

 


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2021.5.18

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